ベンチャー企業と起こすイノベーション

2019/07/02
  • クルマ・技術
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日産創業の地、横浜工場。現在はGT-Rの心臓部であるVR38型エンジンや、電気自動車「日産リーフ」のEVモーターなどを生産しています。先日このユニット工場で珍しい「展示会」が開催されたのでご紹介します。

「ベンチャー企業展示会」と銘打ったこのイベントは、官民ファンドの株式会社INCJと日産自動車との共催で、国内のベンチャー企業7社が参加。会議室には多数の見本品や試作品が展示され、生産部門の社員が熱心に説明を聞き展示品を手に取っていました。このイベントは報道陣にも公開されました。

「なぜ自動車工場にベンチャー企業?」と思う方もいらっしゃるでしょう。日産の工場では、これまで「自前主義」といって生産現場の効率向上や改善活動にかかわる技術を、一からすべて自社内で知恵を出し開発するのは当たり前のことでした。しかし、自動運転や電動化、コネクテッド(つながるクルマ)など、技術の進歩が大幅に加速しているために、すべてを自前で準備していたら世の中の流れに遅れてしまう恐れもあります。パワートレイン生産技術本部の井口栄二は、報道陣に「自前主義から脱却することで『世界初』の技術開発へのチャレンジをスピードアップしたい」と語りました。

また、数年先の車両の開発だけでなく、現場の作業環境向上や精密な計測技術、工場から出る排水処理など、「いま直面している課題」を解決する技術が他分野で既に確立している場合もあります。そうした技術を積極的に外部のベンチャー企業から取り入れることは、開発資源を「コア技術」に集中することで、さらに自動車会社としての競争を優位にすることが期待できるかも知れません。

生産部門を統括する常務の村田和彦は「ベンチャー企業はさほど領域は広くはないが、非常に深い技術力を持っています。自動車会社は幅広い技術をカバーしなければならないため、なかなかそこまで時間を割くことが難しい。オープンイノベーションを通してパズルのようにそのマッチングが可能になるのでは」と期待します。

ただ、いざ「オープンイノベーションで社外の技術を」とベンチャー企業を探そうとしても、単独では見つけにくかったり、見つかってもニーズにあったレベルや種類の技術を持っているかどうかを検証するのに時間がかかったりと、なかなかうまくいかないこともあります。井口も「外部のイベントに頻繁に通っても、すぐに『親密』になれる訳ではないし、時間もかかってしまう」と苦労していました。

そこで今回の共催者であるINCJが活躍します。彼らはすでに多くのベンチャー企業への投資実績があるため、日産の生産技術部門のニーズを汲み取って、最適な技術を持っているであろう企業を、信頼性を担保しつつ提案していただくことが可能です。INCJ戦略投資グループ丹下智広マネージングディレクターは「ベンチャー企業はせっかく技術開発をしても、大規模な設備がないために量産試作や生産立ち上げを単独で行うのは難しい。このため事業化までの間に『デスバレー』と呼ばれるギャップが生じていました。ここで(INCJが)大企業に橋渡しをすることによって、相互にイノベーションを起こして一気にシームレスに社会実装できる」と説明します。

またINCJの志賀俊之CEOは、「日産横浜工場での展示会は今回で2度目。前回はお披露目的な意味合いだったが、今回はさらにニーズとシーズをマッチングしたソリューションが提供できたと思う。イベントスペース等ではなく、実際の工場の現場で顔を付き合わせて真剣にイノベーションを起こしていく活動が日本中に広がって欲しい」と力説しました。

実際に出展したベンチャー企業と技術をご紹介します。

光コム
世界初の「可変圧縮比エンジン」を影で支えるサブミクロンの計測技術

日産は2017年に世界で初めて可変圧縮比エンジン「VCターボ」の量産に成功しました。このエンジンはパワーと燃費を両立するために、運転状況に応じて最適な圧縮比を常に変化させるというもので、非常に緻密な制御が求められます。この機構を生産するためにはサブミクロン(1万分の1ミリ)単位での品質を確保しなければなりません。光コムは通常のレーザーでは難しかったエンジン内部の複雑な形状でも精密な計測ができる技術で、可変圧縮エンジンの生産品質を支えています。これは既にマッチングが実現した案件です。

Ridge-i
AIで非破壊検査

Ridge-iは人工知能(AI)などを得意とする会社。ボルトなどの締結技術に関する検査技術をこれまでの破壊検査(完成品を解体して検査すること)だけでなく、AIを活用することで締め付けトルクや角度、時間などを精密に検査することができないか、検討に入っています。

HALVO
より効率の高い廃液処理

工場はどうしても排水が発生するので、敷地内に排水処理設備が設けられています。HALVOの持つ排水処理技術を活用すると、より簡単な処理で排水から廃棄物を分離、凝集できることが実験でわかりました。今後どの工程に処理技術を適用するかを検討し、横浜工場以外でも排水処理にかかる費用削減と廃棄物量の削減を目指します。

Tobii Technology
視覚検知で検査精度アップ

すでにインドの工場で、検査員の作業員指導にTobii Technologyの視覚検知技術が導入されています。この技術を応用して、エンジンのシリンダーヘッドやシリンダーブロックの最終目視検査の視線を記録し、全数保証を目指す取り組みを始めています。

イノフィス / ATOUN
パワーアシストスーツで作業負荷軽減

工場では重い部品を持ち上げたり、腕を上げたままの姿勢で部品を取り付けたりといった作業があります。今回は作業員の負担を軽減する「パワーアシストスーツ」の分野で「イノフィス」と「ATOUN」の2社が出展。

このうちイノフェスは、モーターを使わず空気の圧力でアシストする介護ロボット「マッスルスーツ」を開発しています。電力を使わず比較的軽量のため、多人数に配布することができる利点があります。

またATOUNの「パワードウェア」はモーター駆動で、シリンダーブロックなどより重いものを持ち上げる作業に導入できないか検討されています。

ABEJA
AIで無駄のない作業

他業種で、ベテラン作業者の目視検査をAIや画像処理によって自動化する実績を持つ会社です。日産では生産現場での組み立て作業について、「どのくらいの時間(タクト)がかかるか」「作業員に無駄な動きが発生しないか」などをAIで分析して可視化する検討を進めています。

このように自動車関連会社ではない企業の技術でも、開発現場に導入できそうなものが数多く存在するのです。

日産とベンチャー企業の関わりは、この展示会だけではありません。たとえば、日産では工場内に部品供給のための無人台車「AGV」が導入されており、この「AGV」も以前は自社内で制作していましたが、現在では専門業社によって量産されています。

逆に、日産の生産・開発現場で考案された特許技術を、行政を介して他業種に供与するケースもあります。第1弾として、ボルトなどを定量数取り出す技術を川崎市の「町工場」に提供しました。

また先日は、車両開発や生産現場で異音の発生源を特定するための音源可視化技術、さらに「AGV」のモニタリング技術をライセンス供与しています。

モノづくりにイノベーションを起こす日産とベンチャー企業の関わりにご期待ください。

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