フェアレディZ、中から見るか?外から見るか?

夢を実現したインテリア・エクステリアデザイナーに聞く

2021/09/16
  • クルマ・技術
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2021年8月。北米にて新型「Z」が発表されました。1969年にデビューして以降、世界中のファンに愛されてきた「Z」。それは、憧れの存在でありながら、手の届くリアルなスポーツカー。エクステリアデザイナーの大越巨之とインテリアデザイナーの山下卓也は、「Z」をデザインすることをずっと夢見てきました。

大越は1997年に日産自動車に入社。2009年の「インフィニティQX60」や、2012年の「インフィニティQX80」などに携わってきました。一方、山下は日産のグローバルデザインチームの中では比較的新しく、4年前に着任したばかり。ですが、彼が手掛けるインテリアデザインは短期間に期待以上の成果を上げ、注目を浴びています。

Q:新型「Z」のデザインチームに選ばれたときの感想は?

大越:本当に嬉しかったです。これほどアイコニックなクルマをデザインするということは、素晴らしいチャンスですから。もちろん、私一人でデザインしたのではなく、他のクルマのデザインと同じようにチーム一丸で進めてきました。世界中のファンの期待に応えなければならないというプレッシャーはありましたが、とても楽しくて、不安や緊張は感じませんでした。

山下:子供の頃から憧れていた「Z」のデザインを担当することになったのは、とても光栄なことで、本当に嬉しかったです。「Z」は日産のアイコンともいえる存在ですから、責任の重さも感じました。このクルマの歴史や、これまで「Z」をつくってきた皆さんに最大限の敬意を払い、最高のデザインに仕上げたいと思いました。

Q: 新型「Z」は、日本のデザインチームだけでデザインしたのでしょうか、それともグローバルのチームも参加したのでしょうか?エクステリアとインテリア、どちらから先にデザインしたのでしょうか?

大越:日本、中国、アメリカ、イギリスのデザインチームが参加したグローバルなデザインコンペが開催されました。各チームから合計約100点のスケッチの応募があり、一次選考で選ばれた作品の3Dデータが作成されました。さらにその中から最終選考に残った3つの作品が、実物大のクレイモデルに仕上げられました。クレイモデルが完成した後、役員がそれぞれのデザインを吟味し、最終的に日本チームの作品が最優秀賞に選ばれました。

山下:エクステリアの形状と主なプロポーションが固まったところで、インテリアのデザインが始まりました。当初、新型「Z」のインテリアは、現行「Z」のデザインを進化させるという案で行くことになっていたのですが、役員たちからのフィードバックを受け、方向転換しました。というのも、役員たちは皆、「Z」のファンで、新型「Z」は内外装ともに最高のものにしたいとの想いが強かったのです。「Z」では一切の妥協をしたくないと言われ、とても嬉しかったですね。

Q:デザイン上、特に難しかった部分はありますか?

大越:もちろんあります!以前のインタビューで入江も語っていた、サイドのキャラクターラインです。見た目はシンプルでスッキリしていますが、全体の印象を左右する非常に重要なラインなのです。キャラクターラインを少しでも調整すると、あわせて他の部分も見直さなければならなくなります。あまりにも何度もスケッチしたので、今ではすっかり体が覚えてしまっています(笑)

山下:インテリアデザインで最も苦労したのは、センターコンソールです。現行モデル(Z34型)は、センターコンソールがドライバーに向かって少し曲がって盛り上がるようになっています。しかし、新型のセンターコンソールは、後輪駆動のスポーツカーらしさを強調する、力強い梁や支えのようなものにしたいと考えました。ですから、真っすぐで平らな形状にしたかったのです。とてもすっきりした形状のコンソールですが、この周りにはシートやシフトレバー、パーキングブレーキなどの可動部があるため、ここまで平らにするのは非常に困難な作業でした。完成度を95%から100%へ高めるのに、半年かかりましたからね。

Q:これまでの開発秘話で、初代「フェアレディZ」(S30型)をはじめとする歴代モデルが、新型「Z」のデザインに与えた影響を紹介してきました。担当されたデザイナーとして、どう思われますか。

大越:新型「Z」は、誰もが一目で「Zだ!」とわかる外観であるべきと考えました。歴代の「Z」を見ると、初代「Z」(S30型)のデザインDNAがしっかり受け継がれていることがわかります。例えば、現行「370Z」のサイドウィンドウからは、初代「Z」への敬意が感じられます。新型「Z」のサイドウィンドウも、初代「Z」と現行「370Z」の両方に敬意を表してデザインしました。また、エンブレムを見なくても「Z」だと感じてもらえるように、ルーフラインからリアガラスハッチへと流れる伝統的なラインで、初代「Z」のシルエットを表現することも重要でした。

山下:インテリアは、S30型からヒントを得て、「リバーススラント(逆スラント)」のデザインを採用しました。スラントとは、ダッシュボードの中央上方にあるエアコンの吹き出し口のことです。ダッシュボードの下部とは逆の角度になっていることから、こう呼ばれています。リバーススラントにより、ドライバーの視界に入る視覚ノイズを減らし、高速走行時にも安心して運転できるような室内空間を目指しています。S30型のセンターダッシュパネルは独特のレイアウトでした。一番上のドライバーの目線に近い位置に3連メーターが配置されていました。すぐ下にはエアコンの吹き出し口があり、さらにその下にはエアコンやオーディオのコントロールスイッチ類がありました。この積み上げたような独特なレイアウトは、他のクルマにはなかなか見られないので、新型「Z」にも残したいと考えました。特に、「300ZX」(Z32型)のインテリアで感じられるような、日常的に運転しやすいのに、本物のスポーツカーの味わいがある雰囲気が出せたと思っています。

Q:歴代のZの中で個人的に好きなクルマは?

大越:最初の「Z」であるS30型はもちろんですが、Z32型も好きですね。私が3歳くらいのとき、父が日産のカタログを持って帰ってきたのです。表紙に黄色の「Z」が載っていて、それがS30型だったと思います。それ以来、スイッチが入ったかのようにクルマの絵ばかり描いていました。「300ZX」(Z32型)が発売されたときはまだ学生でしたが、こんなデザインが日本から生まれたのかと、衝撃を受けたのを覚えています。

山下:幼い頃、父が「300ZX」(Z31型)に乗っていたため、ずっと「Z」のファンでした。クルマのデザイナーになろうと思ったきっかけも、父と「Z」の影響が一番大きかったと思います。父はケンメリの「スカイライン」(C110型)にも乗っていましたが、私が一番好きなのは「Z」でした。なので、一番好きな「Z」はどれかと聞かれれば、S30型とZ31型が同点でしょうね。

Q:自分の作品を振り返って、新型「Z」の中で最も気に入っているところはどこですか?

大越:リアエンドが好きですね。緩やかなルーフラインが強調され、どっしりとした構えになっています。そして、S30型を彷彿とさせるロマンチックなイメージを醸し出しながら、非常にモダンな印象も与えています。これを表現するために、ミリ単位の調整を続けました。おかげで、一目で「Z」とわかるシルエットができたと思います。

山下:私が特に気に入っているのは、助手席側から見たダッシュボードとインストルメントパネルです。運転席前のダッシュボードは、長いボンネットが流れるように、さらにそのままコックピットまで延びてきたかのような形状にしました。無意識のうちに印象に残るデザインで、これがエクステリアとインテリアをつなぐ架け橋となっています。また、ダッシュボードの全体も面として独特で気に入っています。

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